ぺたんぺたん、ぱたぱたきゅっきゅっ…ゴムとピータイルの擦れ合う音が静かな廊下にひっそりと響いている。今日は俺が新しく就任した学校の始業式で、なんで廊下が静かかって言うと生徒は教室にみんな入っているし仮に五月蝿いとしても此処は特別教室ばっかりの棟だから生徒の教室はないんだよなー、って(歩きながら考えてたらうっかりあたまぶつけた、)隣を歩いていた修先輩(この学校ではDTOって名乗っているらしい、ぐれいとてぃーちゃーでは、ないのね)が変な顔して立っている、どうやら曲がり角を曲がらずに壁に激突した先生を見たのは初めてのようだ(というか俺だって見たことねぇよなんだこの漫画的展開!!どじっこかおれは!)そのぐれいとてぃーちゃーでない修先輩はここの英語教師をしているらしい。そーいや昔カラオケ行ったとき英語の歌うまかったよな、とか(でもそれは英語教師に必要なのだろうか)おれは国語教師で、英語は昔から天敵(…)だ。先輩には申し訳ないけどね。これは色々と仕方ないんだよ先輩。(赤点…)ふ、と目の前を見たら『7期生卒業記念品』と書いてある等身大の鏡があった。念入りに(というかなんというか簡単にかもしれない…)自分の姿をチェックする。髪の毛は茶色で、格好だってジャージだ(今はデザインが変わったこの学校のジャージだ。)から、大丈夫だと思う。金髪で、ちょっとだけチャラッとした服装して親任式行ったら直前で「なんて格好しているんだお前は!」て校長に怒られたから一週間一生懸命考えた結果の服装だ!(ていうか今思えばスーツとかの方が良かったかも知れない、体育教師じゃあるまいし…)気合い入れるためにタオル頭に巻いてるし、熱血教師!ハジメ先生(に、見えたらいいな。)どうせ願望だけどー…。と、まぁ望み薄な顔で鏡越しに先輩の顔見たらフンッってかおして笑われた(いや、嗤われた?)は、腹立つ…!!!
鏡から教室三つ進んでいったところに『2−B』の札が掛かった教室を見付けた。うわ、ききき…キンチョーしてきた!!俺の受け持つ生徒たちかー…どんな生徒なんだろう可愛いヤツばっかりだったらいいなぁ(勿論容姿じゃなくて性格が、だからな!誤解すんなよ!!)修先輩がヒョイって出席簿を投げてくる。黒の表紙に俺の字で2−Bって書いてある(汚い字だ…)それを笑顔で受け取って先輩に軽く会釈。


「頑張れよハジメ。」
「りょーかいっす先輩!」


ちょこっと笑顔な先輩を横目でちらり見てガラガラと古典的な音がするドアを開ける。一歩、教室に足を踏み入れる(うらが実はガタガタしてるよ足!)なんかみっともなかったから足早に教卓まで進んだ。うわぁ、なんか甘い匂いがする人工甘味料な匂いがする…!で、一斉にこっちを向く生徒。生徒…!!(なんだか先生になった実感が、少しする)黒板にある真新しいチョークを持ってカッカッと黒板に文字を(汚い字だやっぱり)かいていく。パラパラと粉が溝に溜まっていってチョークが減っていることを俺に伝えた。(アルミサッシの綺麗な溝だ、掃除したて?)カタカナで、3文字。『ハジメ』とだけかかれた黒板をさっきまで五月蝿かった生徒達はどんな目で見ているのだろうか、(気になる!) 


「センセー!!苗字ないんですか!?」


突然(ほんとに突然。だってまだ俺黒板の方向いてるのに…!!)ガタッと音がして声が聞こえた(立ったのかな…)クルリと振り返ると挙手したまま立ち上がっている男子生徒が目に入った。(つーか出席番号じゃなさそうだこの生徒の配置状況は)金髪で(違反だ!)いい具合に制服を着崩している(不良かも知れない!!)背の高い生徒は、クチャクチャとガムを噛みながら、そして膨らませながら俺に尋ねた。ガムの色が薄い紫色でもしかしたら昨日発売されたガムなのかも知れない!人工甘味料な匂いはコイツかも知れない!と、決めつけてしまう俺。「おーうひみつだぜー!!」と馬鹿みたいな笑顔で答えてしまう、わぁ、下手したら俺生徒にいじめられるかも!!ガム噛み噛み野郎が座ったのを確認して机に両手をつく、改めて教室を見る。(やっぱり出席番号順の席配置じゃない…)


「今日からこのクラスを受け持つハジメだ!科目は国語総合現代文漢文古文なんでもこい!そして今何か質問有る奴は手を挙げて出席番号及び名前をそれなりに大声で叫んで速やかに起立してくれ!!」


ぽっかん、と俺の方を見ていた生徒達の中から意気揚々(に見えた)と手を挙げ立ち上がる生徒が。えぇ、マジで!?最近の子どもってそう言うのしない子が多いと思っていたのに!!(失敗失敗)「16番?のリュータ。」一番に声を上げたのはさっきの金髪。(つーか16番?って疑問符付けないでよ不安になるじゃないか!)相変わらずガムを口からだす気配はない。まぁ別に出さなくても良いけどな。高校生ってこんなもんだろー、俺もっと酷かったもんなー!!(とか呑気に言ってる場合じゃないかも知れない、おぉう先生達ゴメンよぉぉおお)そうだ、昔の俺みたいなの(重度の不良)が生徒にいない限りこのクラスは平和だ安泰だー!!とか、絶対確信有るみたいに考えた、(けど)教職はお前が考えるより甘くねぇぞって修先輩も言ったしあぁなんだよこれまったくわからねぇよ!!俺のお先真っ暗!?どうしよう笑う門には福来たるだから笑えば明るくなる!?


「先生彼女はいますか?」
「いやいやそれフツー女子が聞く質問だろ何考えてんだよリュータ!!」


どっと教室内が湧く(なんで?)、…俺が見る限りこの金髪で(多分問題児であろう)リュータはクラスのムードメーカーで女子にももてるタイプ(だろうな俺の人生経験からすると)……ちょっと悔しい…、かも。俺もこんなんだったらなぁとホロリ涙が一筋(ながれる事はないだろうけど)(だって俺まだ若いし、90歳まで生きるもんな!!)


「ちょ…サイバー大変がドツボにはまった!!誰か水!」
「マジかよも正気に戻れ今の絶対面白くないから!!」
「ちょっとお前等夫婦漫才止めろよ見てるこっちがコテコテになる!!」
「え、誰と誰が夫婦?俺と?」
「ばーか、お前とリュータに決まってんだろ。」
「そーだぜ図書委員の山野の言うとおりだぜー!」
「なにさり気に図書委員て確定してんだよ!今日新学期だぜ!!」
「べついいじゃん俺等図書とかめんどい!!」
「俺だってめんどいし!!そんなの暇な奴やれよ俺部活してんだから!」


……何なんだこのクラス…呆れて物が言えなくなるって言う状態通り越したよ。なんだこりゃここは吉本か。俺は吉本を最前列で見て呆れ笑いをおばさん達に囲まれながら見ているみたいな状態なのか!?(どんな状態だ!こりゃ生で吉本見に行くしかない!)修先輩助けてー!!こんなカオスな学校で俺やっていけるか些か不安だ!!修先輩2年間もこの学校で授業していまや生徒から絶大な人気がある先輩寛大偉大!俺も早くそんな教師になりてぇぇええええ!!!(て、なんかパンクしてたらリュータがまた質問してきたゴメンな先生パンクしてて。)


「センセー!もう一個質問有るんだけどイイ?」
「おー先生何でも答えるぜ!!」
「なんで親任式いなかったんですか?」
「………」
「んーとだ!!そういやいなかったよな〜。」
「風邪とかかな?全然疑問に思わなかったし。」
「てかいなかったっけ?そうだとしたらマジウケる!!」


にやり、質問したリュータが(ある種いやらしく)笑った。なんだ俺に何か墓穴を掘れといいたいのか?(話しても話さなくても墓穴掘る気がするある種懸命な俺がそう言ったよ頭の中で警鐘警鐘カーンカン)(そして内容があまりにも馬鹿らしいから話す気にもなれない、)誤魔化すか!風邪とかとっつあぁんが危篤だったとか…あーでも危篤は駄目だ縁起悪い。とっつぁんの前に俺が危篤になりそうだ。それはさけたいな、危篤危篤おれうるせーな!!ちょっとは他の単語を思い浮かべろ!! ……ご臨終?(もっと縁起悪くなったよ俺の馬鹿ー!!!)


「えー…アレだ、大人の都合だ。」
「先生嘘はいけねぇよ〜!俺知ってるんだぜ!」
「……は?」
「先生親任式直前に校長に引っ張られてただろ?」
「マジで!?あの金髪先生だったのか!!」
「うそー、そんな先生いたの?」
「あのチャラチャラしてた先生ハジメ先生だったんだー。」
「てかなんでリュータ知ってたんだよ!そんなおもしれー情報はまず第一に親友のサイバー様の所に届けるべきだろ!!」
「ヤダよ。第一親友じゃねーし」
「サイバーショック!!は!?も見たんだろ?」
「え?見てないよ放送器具準備の手伝いしてたしサイバー手伝ってくれなかったから時間掛かったんだよ。」
「最後まで俺悪者!!ちょっと誰か慰めろ!!」
「次期図書委員の山野君です。」
「だれが図書委員だ誰が!!生け贄のように差し出すな馬鹿!」
「さぁ彼に慰めて貰え!」
「山野ぉぉおお!!」
「抱きつくな鼻水付けるな俺ソッチの趣味はないんだよキモイ!!」
「そんなぼろくそいわないでくれよぉぉおおおおお!!!!」


………、傍観するしかない俺が いる(ちょっと情けない)


「お前等もう気が済んだだろ、HR始めるぞー!」
「流石先生!俺の救出のためにそんな遠回しに言わなくても『サイバー君が可哀想だろ。お前等慰めてやれよとくに女子。』とか言ってくれた方が嬉しかったのに〜。」
「何いってんだよ斉場ぁー!センセー困っちゃうぞ!!」
「漢字変換するな先公が!!俺はサイバーだ!!」
「ついで言うと女子は慰めないわよ全員。」
「そんな!!」


結局そのガヤガヤは俺が切り出して10分たっても止むことはなかった。仕方無しに強行突破するも失敗。おぉおお難しいな教職って!!なんか漫画的古典的なオチだけども実際俺の目の前で起こっているんだから仕方がない。最近の子はお喋りでパワフルな子が多いなぁ…殆ど全員を巻き込んでワイワイと騒いでいる教室が今日から俺の仕事場か、とおもうと少しげっそりしたけどなんだか楽しみになってきた。パッと見ても問題児の中の問題児はいないしもうネガティブオーラむんむん生きるの嫌だみんな死んじゃえ…!みたいな子もいない(一部、このガヤガヤの輪になかなか入れてない生徒が居るけれどなんだか興味津々だからタイミングさえ測れば大丈夫だろう、おお先行きが少し明るくなったぞ!!こいつらちゃんと朝飯食ってるみてぇだし問題無しだな!寧ろ問題なのは俺の食料なわけで栄養が偏るけどやっぱり手軽なメロンパンがお好き。(なんだこのオチ!)なんだかんだで俺の教員一日目、始まるみたいです。頑張れ俺負けるな俺いざとなったらファイト一発りぽびだんでぇーい!!(そういう思考になった俺を誰か馬鹿といってくれ!さり気に誤字っぽいけどスルーしてやってくれそれ寛大だよな!てか寛大と偉大ってなんか似てるよなおれ国語教員だけどしょうじき漢字って良くわかんねぇ!これ死活問題だよなよく国家試験通ったよなペーパーテストって終わったら絶対中身忘れるよな!!)




「……、出席取るから呼ばれたら手を挙げて元気良く返事!!」「はぁーいよ!!」「まだ呼んでねぇだろお前等!!」