青年…小野妹子は焦っている。少女の後を追っていったら聖徳太子と蘇我馬子が仲良く酒を啜っていたから。てっきりこちらに来たものだと思っていたけれど父親に当たる馬子が何事もなかったかのように外を見ながらうつろな目をしていたし婚約者にあたる聖徳太子は胡座をかいて俯いていた。酒の席だとはとうてい思えないような雰囲気…空気が重苦しくて正直自分はこんな席で酒は飲みたいとは思わない。それはどうであれ父親がこんなに冷静なのはきっと女人が少女を連れ戻したからだと信じたい。蘇我馬子だろうとも一人の娘の父親だ娘を心配しないはずがない。それとなく自分の心を納得させて出ていこうとすると「妹子も、 を見捨てるのか?」…は?なにそれ。と声のする方を振り返る。聖人聖徳太子がこちらを真剣な目で見ていた。見捨てる?なにを。




「僕が何故見捨てるんですか。何を見捨てるんですか?」
を…」
様はお部屋にお戻りになられたのじゃないのですか?」
「出ていったよ、森の方に走っていった」
「ぇ」
「お前も を見捨てるつもりか」
「追いかければいいのは貴方でしょう?僕は只の 様の食事係じゃないですか!おかしいのは貴方だ!婚約もしたのに、何であの子を追いかけないんだ!!」




自覚何かしてない、でも目に涙が溜まって視界がぼやけて歪んでいる。大きな声になったけど、やっぱり馬子様はうつろな目をして何処か遠くを見ていた、酒を啜りながら。何かが頬を伝っていたけれど。キッと太子を睨んでまた大声を出す。あぁ感情的になりすぎている、でも押さえきれない。何だ僕はこんなに臆病だったのか。




「なんで、あの子は貴方をとても大切に、していたのに…!!」
「私で駄目な理由くらい見えているだろう」
「見えるわけ無いじゃないですか!なぜ、僕に見えるんですか!」
「見えないなら見てきなさい。」
「…は」
は、外に出て、塀を乗り越えていったよ。」




びっくりした。塀っていったってあんな僕の背よりも高いものに登ったとか本当は外に出て運動とかしてるんじゃないかって疑ったけどそれはないよな、暗くなるまで大体一緒に話をしているんだから。じゃあなにがあの人を突き動かしたんだろうか。太子が木靴を貸してくれたから僕も塀をよじ登って飛び降りる。うわ、なにこれ高い!湿っていてベタベタしてる地面を蹴って森の中に入ってみた。何が僕を突き動かしているのだろう。



















「馬子さん」
「……、」
「妹子が追いかけましたよ。」
「……。」
聖徳太子が話しかけると蘇我馬子はゆっくり頷いてまた外を見ていた。頬に水の伝った跡があるのはやはりこんな人でも人間なんだということを再確認できる気がする、とクスクス聖徳太子は笑った。きっと海里は
、と悲観的に出ていったんだろうなぁ、けれど。君の父親はこんなにも優しい人だよ。と声を大にして伝えてあげたい。ただ単に不器用なだけなんだよ。君が大きくなるに連れて進行しちゃっただけなんだから。